昔むかし、宿毛の山奥に猟師がおった。
猟師は2匹の犬を飼っておって、白い犬を「白べん」黒い犬を「黒べん」といって、たいそうかわいがっておったそうじゃ。
あるとき、2匹の犬を連れて獲物を追ううちに猟師は道に迷ってしもうた。
すると、2匹の犬が急に激しく吠え始めた。
犬達が吠えている方を見ると、大きな松の木がころがっておった。
不思議なことにその松の木から血が流れておる。
猟師が近寄ってよく見てみると、松の木と思ったのはおおきなうわばみじゃった。
2匹の犬はうまばみに飛びかかり、猟師はうわばみに向けて何度も鉄砲を撃った。
うまばみは、とうとうバターンと倒れて死んでしもうた。
やっとのことで家に帰りついた猟師が疲れて寝ておると、夜中にギイギイと家がきしむ音がする。
猟師がねむい眼をこすりながら外に出ると、なんと、昼間のうわばみが家をぐるぐる巻きにしておった。
「うわばみめ、生きておったか」と猟師が言うと、
うわばみは「昼間のうわばみの女房じゃ!仇を討ちにきた!」
猟師は鉄砲をかまえ、白べんと黒べんは飛びかかっていった。
けれども、うわばみは強かった。
白べんは丸呑みにされ、黒べんは絞め殺されてしもうた。
猟師は恐ろしくなって、「八幡大菩薩っ!」と叫びながら、あたりかまわず鉄砲を撃ちまくった。
夜が明ける頃、でかいうわばみは血を流して死んでしもうた。
それからしばらくたって、その山の奥で「シロベーン、クロベーン」と鳴く鳥が現れてそうじゃ。
うわばみに殺された2匹の犬の魂が鳥になったと思った猟師は、きっぱりと殺生をやめ、2匹のべんの魂を供養しながら 一生百姓をして暮らしたということじゃ。
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