昔むかし、ある島で鬼達が仲よく平和に暮らしておったそうな。
ある日のこと、大将の赤鬼が島の鬼達に集合をかけたそうな。
大将の赤鬼が言うには、昨夜、人間が一生懸命に祈っているのを聞いたそうじゃ。
土佐の国の久礼浦(くれうら)という港があって、海が荒れるたびに波を受けて、たいへん困っておるという。
鬼達は困っている人間を助けるために、島の近くにある岩を港の入り口に持っていって波を防いでやることにしたそうな。
一匹の鬼が海に入り、その岩を思いっきり持ち上げようとしたがビクともしなかった。
力自慢の鬼達が次々と挑戦したが、岩は持ちあがらなんだ。
そこへ、一番の力持ちの黒鬼がやって来て、顔を真赤にしながらその岩を「ええーい」と持ち上げたそうじゃ。
するとほかの鬼たちも手伝って、久礼をめがけて岩を持ってすすんだそうじゃ。
しかし、なかなか久礼に着かず、そのうち、鬼たちはくたびれて、ひとりひとり、岩を運ぶのをやめていったそうな。
なんとまあ、久礼のことを言い出した大将の赤鬼までがいなくなってしもうたそうじゃ。
最後は、とうとう黒鬼親子だけになったそうな。
黒鬼親子は、体力の限界に近づいておったが、励ましあって頑張った。
そして、かすかに久礼の灯が見えてきたその時、二人は力つきて海の中へ沈んでしもうたそうな。
それ以来、この黒鬼親子が持ってきた大きな岩は「双名島」と呼ばれるようになり、今でも、久礼の港に美しい姿をみせているということじゃ。
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