昔むかし、土佐に喜馬太という男が住んでおったそうな。
ある冬の寒い朝のこと、喜馬太がたき火をしていたら、薪が足らなくなってしもうたそうじゃ。
喜馬太は、近くにあった古い祠の屋根を取って来ると、薪にして焼いてしもうたそうな。
次の朝、喜馬太の妻の片目がひどく腫れあがってしもうた。
隣の家の喜五郎が心配して、氏神様へ相談したら、
「いぬいの方角(北西)の”一(いち)”という目の不自由な坊さんの祠にお願いするがよい」と言われたそうな。
ところがどうじゃ、その祠というのは、喜馬太が薪にしてしもうた祠のことじゃった。
妻は氏神様の言う通りに、その一様の祠へ行って、
「私の目を治してくれたら、祠を新しく建てます」と言うて、お祈りをしたそうじゃ。
すると不思議なことに、翌朝には、妻の目はすっかり治っていたそうな。
妻はとても喜んで、さっそく祠を新しくしようと喜馬太に相談したが、喜馬太は相手にせなんだそうじゃ。
するとその晩から、また妻の目が疼き出し、今度は両方の目が見えなくなってしもうたそうな。
これには、さすがの喜馬太も弱ってしまい、とうとう祠を新しく建て替えることにしたそうじゃ。
そうして、祠が新しく建て替えられると同時に、妻の目もすっかり治ったそうな。
今でも、この一様の祠は、目の神様として、県道のそばに建っておるということじゃ。
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