その昔、今は瀬戸内海に浮かぶ大三島にある、天照大神の兄神を祀る大山祗神社が上浦町にあった頃のお話じゃ。
上浦の瀬戸は、風が大そう強いので、大山祗神社の神様は、今の宮浦に社を移すことにしたそうじゃ。
それで宮浦をあちこち歩いて回ったが、どうも気に入る場所が見つからなんだ。
歩き通しで、そのうち神様は疲れてしもうて、道端に腰をおろして休んでおんなさったそうじゃ。
するとその時、向こうから、「かずらきさん」と呼ばれるお百姓さんが歩いてきたそうな。
神様は、そのかずらきさんに「これ以上歩き回るのも疲れるので、このあたりの土地を貸してもらえんじゃろか」と頼んだそうじゃ。
かずらきさんは、「どうぞ、そこのわらの束で、すきなところにしるしをして下され」と言うたそうな。
神様は大よろこび、さっそくわらの束をつかむと、あたり一面にばらまいた。
すると、かずらきさんは、「ものは相談じゃが、神さまのあんたに土地を貸すのじゃから、ついでに、わしも拝んでもらうようにしてはもらえんかのう」と言うたそうな。
神様は、ちょっとばかし難しい顔をしなさったが、土地を貸してもらうのじゃから、むげに断わるわけにもいくまいと、承知しなさったそうじゃ。
それで社を移す時、拝殿の前に祠を建てて、かずらきさんを祀ったそうじゃ。
このとき以来、参拝する人は、まず、かずらきさんを拝んでから、大山祗大神を拝むようになったいうことじゃ。
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