昔むかし、今の道後温泉のそばに湯月城というお城があった。
そこに河野伊予守道直というお殿さまがおった。
ある日、お殿様が狩りから帰ってくると、奥方が二人おった。
二人の奥方は、姿かたちはもちろん、声もしぐさもそっくりじゃった。
あまりにそっくりなのでお殿様はどっちが本物でどっちがにせものか、全く見分けがつかなんだ。
困ったお殿様は、二人の奥方を座敷に閉じ込めると、つぶさに二人の様子を観察することにしたそうな。
しばらくして、二人の奥方がお腹が空いた頃をみはからって、ごちそうを出したそうじゃ。
すると、一人の奥方が耳をピクピク動かして、ガツガツ食べ始めた。
「あれがにせものじゃ!」とお殿様が叫んだ。
家来たちは、急いでその奥方を捕まえると、庭の杉の木にくくりつけて松葉の煙でいぶった。
すると奥方だった姿はみるみる変わって、古キツネが正体をあらわした。
お殿様は「おのれ、キツネのぶんざいで、こともあろうに奥の姿に化けるとは許せん。火あぶりにしてくれる」と激怒したそうじゃ。
家来たちが火あぶりの用意をしていると、どこからともなく何百匹というキツネが現れて、みんな頭を地面にこすりつけて謝りはじめた。
「どうか許してくださいませ。このキツネは四国にすむキツネの中で一番とうといキツネです。」
あまりにも熱心にキツネたちが謝るので、お殿様はキツネを許してやることにしたそうな。
奥方に化けたキツネは、お殿様に深々と頭を下げると、
「申し訳ございません。これからは四国には住みません」と、お詫びの証文を残して、みんなを連れて四国から立ち去ったそうじゃ。
それからは、このあたりではとんとキツネを見かけることはなくなったということじゃ。
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