昔むかし、塩江の旧家に一人の美しい娘がおった。
娘は年頃になったので、家の者はどこかに良い婿はおらぬかと探しておったそうじゃ。
ある時、娘が岩部の観音様にお参りしたおり、ちょうどそこで村岡新之丞という若い武士にでおうたそうな。
それから、二人は互いに心を寄せ合う仲になったそうな。
ところが、娘の父親は新之丞が気に入らず、娘の所へ通ってくる新之丞を亡き者にしようと、通ってくる川の橋板の裏をのこぎりで挽いて細工しておった。
そうとは知らず、新之丞は橋板が折れて、川に落ちて死んでしもうた。
娘は新之丞が死んだことを知り、嘆き悲しみ、川に身を投げて死んでしもうたそうな。
それからというもの、その川では、二人が水面に見えたり、二人の話し声が聞こえたりするようになり、里の人たちはどれともなくその川を「物言川」と呼ぶようになったそうじゃ。
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