昔むかし、栂谷(現在の津賀谷)に腕のいい刀鍛冶が、弟子と共に住んでおったそうな。
その腕の良さは土佐の国中で噂されるほどじゃったそうな。
ある日、刀鍛冶のもとへ一人の武士がやって来て、「刀を見せてもらいたい」と言うたそうな。
鍛冶屋は、精神を集中しておる最中に突然訪ねて来て、武士があれやこれやというもんじゃけに、うるそうて うるそうて、横柄な態度になってしもうた。
いろいろ話をしておるうちに、その場の雰囲気は険悪になってしもうたんじゃと。
武士はついに怒りだし、刀掛けの真新しい刀を取って、いきなり刀鍛冶の首を斬り落としたんじゃと。
武士は、側の池で刀についた血を洗うと、その刀を持って立ち去ったそうな。
小さな池は、血で真っ赤になったそうな。
残された弟子は、師匠の遺体を池の側に埋めて、その盛り土の上に、桧の枝を一本折って、それを逆さに立てておいたそうな。
やがて、桧の枝は根付き、枝を出して、年と共にぐんぐん成長していったそうな。
ところが、不思議なことに、そのヒノキは幹も枝も全てが捻れておったそうじゃ。
ある時、近くに住むひとりの男が、その捻れたヒノキの枝を一本切り取ってみたそうな。
すると、枝の切り口からポタポタと血が流れ出してきた。
男は、恐ろしゅうなって、枝をほうって逃げ帰ったそうじゃが、それ以来、得体の知れん病気にかかって、遂に亡くなってしもうたそうな。
その後は誰もその桧に手を触れる人は無かったという。
この捻れヒノキは、今もなお、捻れたまま残っておるそうじゃ。
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