弘法大師が修築したことで有名な日本一のため池・満濃池に伝わるむか〜し昔のお話じゃ。
この満濃池に竜神様が住んでおられた。
ある日のこと、竜神様が水底で休んでいると、地上でとっても楽しそうな子ども達のはしゃいでいる声が聞こえてきた。
竜神様は、その声に誘われて、そっと水面に顔を出した。
「おぉ!今年は豊作だったのじゃな。それで、大人も子どもも楽しそうにはしゃいでおったのか」
豊作の香りに満ちたおいしい空気を吸い込んで竜神様も外に出たくなったそうな。
そこで、みんなを驚かさないように、竜神様は小さな小さな蛇に姿を変えて池の堤に出てこられた。
あたたかな陽気と新藁の香りにつつまれた竜神様は、あまりの心地よさにうとうとと居眠りしてしまったそうじゃ。
すると、どこからともなく飛んできた鳶は、蛇の姿で居眠りしていた竜神様をくちばしにくわえて近江の比良山の洞窟まで持って帰ってしもうた。
この鳶は、近江の比良山に住む天狗が姿を変えて飛んできたものじゃった。
竜神様はもとの姿に戻ろうとしたのじゃが、一滴の水もないため、神通力を発揮することができず、困っておった。
天狗は今度は比叡山へ飛んで行き、便所から出てきて手を洗おうと水瓶を持ったところのお坊さんをさらって、竜神様を閉じ込めている洞窟へ押し込めると、またどこかへ飛んでいってしまった。
竜神様は、お坊さんにお願いして、お坊さんの持っている水瓶の水をふりかけてもらうと、神通力を取り戻し、龍の姿にもどったそうじゃ。
竜神様は、まずお坊さんを背中に乗せて比叡山に送りとどけると、今度は京の町で荒法師に化けていたずらをしようとしている天狗を見つけて、こらしめました。
それから満濃池に戻った竜神様は、今も水底で静かに人々を見守っておるということじゃ。
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