大正時代のことじゃ、土佐の羽根村に留やんという大工がおった。
あるとき、嫁に出した娘に子供が出来たと聞いて、留やんは、朝まだ暗いうちに隣り村へ出かけたそうな。
その途中「おっちゃん、おっちゃん」と、誰やら呼ぶ声がしたそうな。
ふり向くと、小さな坊主がニコニコ笑いながら立っておる。
留やんが何の用かと訊ねると、その小さな坊主は「おっちゃん、相撲とろよ」というたんじゃと。
留やんは急いでいるからと立ち去ろうとしたのじゃが、その小さな坊主があまりにしつ「相撲をとろうよ」と言うので、しかたなく相手になって相撲をとり始めたそうな。
留やんは、小さな坊主を何度も投げつけたのじゃが、その小さな坊主は平気で何度も「相撲をとろうよ」と笑っておる。
留やんはついカッカして、小さな坊主を何度も投げつけて、泥の中へ押しつけたりしたんじゃと。
どのくらいたったじゃろうか、通りがかりの人に声をかけられた留やんが、ハッと気がついて、われにかえると、ひとりで田んぼの中を転びまわったり、石をけとばしたりして、泥まみれ、血まみれになっておったそうな。
留やんは、河童によく似た男の子の妖怪「しばてん」にだまされておったのじゃと。
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