昔むかし、大坊千軒という大きな町(現在の高知県須崎市あたり)があった。
その町の海岸にはたくさんの漁師の家が連なっておったそうじゃ。
ある日のこと、一人の漁師に大きな魚がかかった。
漁師仲間が手伝って数人掛かりで引き上げたそうじゃ。
ところが、引き上げた魚を見て皆びっくりしてしもうた!
魚の形はしておるが、頭は人の顔そっくりだったそうじゃ。
やがて、この人魚のような奇妙な魚の話があちこちにひろがり、いろんなところからたくさんの見物人がやってくるようになった。
しかし、不思議なことに、この奇妙な魚はひと月たってもふた月たっても引き上げたままの状態で腐ることがなかった。
そんなある日のこと、浜辺で一人遊んでおった近くの漁師の小さな女の子がその魚の上にのって遊び始めたそうな。
夕方になって娘を探しに来た母親は娘を見てびっくり!
なんと娘は、その奇妙な魚の傷ついた箇所をぺろぺろとなめておるではないか!
母親は娘をあわてて家に連れ帰ると、すぐに体を洗い、毒でもあったら大変じゃと口をすすがせた。
幸いなことに、娘は何の異常もなく、その後もすくすくと元気に育っていったそうな。
年頃になった娘は漁師に嫁ぎ、子どもも生まれ、孫も生まれ、病気ひとつせずに八、九十歳になったのじゃが、不思議なことに、見た目も若い娘のままじゃったそうじゃ。
知り合いはみんな死んでしもうても 娘は生き続け、200歳になった時、とうとう尼になって行脚の旅に出発したそうじゃ。
その旅路の果てが若狭の国じゃったというが、そこで数百年も生き長らえて800歳となった時、娘は故郷の土佐に戻り、鴨大明神に石の塔を寄贈したという。
その後、娘が何歳まで生きたのか知る物は誰もいないが、現在も須崎市多ノ郷の加茂神社鳥居わきに立つ十一重の塔が、その娘(八百比丘尼)の塔と伝えられている。
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