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四国香川県大野原町在住の普通の人。
食品会社を早期退職して独立、「石川ファーム」創業。
平成15年環境保全型農業推進コンクール中国四国地区優秀賞を受賞するも、その当時の農法に満足せず、より環境に優しい自然栽培を追求。
農薬・化学肥料はもちろん、有機肥料さえ使用せずに太陽など自然の恵みと土が持つ本来の力を生かして作物を育てながら、普通のおっちゃんとして暮らしている。
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とってもユニークな普通の人 4人目
古事記によれば、淡路島の次に誕生した土地が四国。
その時代、讃岐の国は「飯依比古」(いいよりひこ)といわれていた。
飯を盛った山ということで、飯野山とよばれている山も讃岐にある。
古事記の時代、讃岐ではおいしい米がとれていたのだろう。
江戸時代も、讃岐米は、庄内米、近江米とともに、日本3大米といわれるほど美味しかった。
美味しい米処というイメージが全く無くなった現代の四国香川県大野原町で、今、静かにファンを増やしつつある常識破りのお米が栽培されている。
このお米【自然栽培米】を栽培しているのが石川さんだ。
自然栽培といえば、「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんが有名だ。
その木村さんの言葉を借りると「自然の山の木々は、農薬も肥料も使わないのに元気に葉を繁らせ、豊かな実をつける」。
ここで言う自然栽培とは、自然の野や山を手本にした自然農法。
農薬はもちろん、化学肥料だけでなく有機肥料さえ使用しない。
太陽の光や雨などの自然の恵みと、土が持つ本来の力を最大限に生かす栽培方法なのだ。
余談になるが、石川さんはまだ有名になる以前の木村さんからリンゴを購入して実験的にドライりんごを作っていたこともある。
「今は、さすがに木村さんのリンゴは手に入らない」そうだ。
石川さんは、苗を植えてからは一切追肥しないが、稲刈り後から田植えまでの期間に腐葉土などを使ってしっかり土作りを行っている。
腐葉土も人の手が入っていない自然の山の中から運んでくる徹底ぶり。
土作りとともに、お米の栽培過程に見えない部分がる。
それは、種子から田植えまでの育苗過程。
無農薬栽培を謳っている農家でも、通常なら種子はJAなどから購入する場合が多いのだが、石川さんは自家採取。
毎年、少しずつ変異していくのをチェックして、適していると思われるものを自らの目で選び出す。
種籾ももちろん自然栽培。
田んぼは、近くの農薬を使った田んぼの影響を受けないように川を間に挟んだり、距離をとったりしている。
田んぼに使用する水も、生活排水などで汚染されていない地下水を利用。
←田んぼ専用の井戸
また、石川さんは除草剤を使わないどころか、苗がある程度育つと雑草さえほとんど抜かない。
うまく土作りができた田んぼの場合、ある程度成長すれば、稲の方が雑草より強いので抜く必要がないとのこと。
稲の生命力(勢い)が違うのだ。
↑雑草にも負けない生命力溢れる稲
言葉で説明すれば簡単だが、ここまでの石川さんの道程は平たんではなかった。
石川さんは、ここまでたどり着くのに、ナント!10年以上の歳月を要している。
しかも、最初から現在に至るまで、国からの補助金等も一円ももらっていない。
途中、収穫量がゼロに近い年もあり、また、収穫できても、人に食べてもらえるようなお米にならず、経済的なことを考えると、何度か「もう、やめてしまおう」と思ったこともあった。
10年以上の試行錯誤の結果、無農薬栽培としては稀なことだが、今ではやろうと思えば通常栽培とほぼ同じ収穫量が可能になった。
ところが、石川さんはある程度大量の収穫量が可能であるにもかかわらず、通常栽培どころか一般的な無農薬栽培と比べても意識的に低い収穫量になるように株間隔を広くする等して栽培している。
株の間隔が狭いほど収穫量は上がるので、普通の株間隔は10〜20cmだ。
それを、石川さんは田植え機で設定可能な最大幅36cmにして田植えしている。
普通は一ヶ所にまとめて4、5株植えるところを、1、2株しか植えない。
また、稲刈りも収穫量を減らさない為には脱粒しない完熟前に刈り取るのが普通だが、石川さんは脱粒しても完熟するまで刈り取らない。
その理由は、美味しいお米を作りたいという思いと、お米ひと粒ひと粒の栄養価を高めるため。
効率や儲けを考えると、真逆の行動だ。
これら一連の作業を、石川さんは一人でこなしている。
野菜も育てているため、朝2〜3時に起きても、田植えには4月終わりから7月初めまでかかってしまう。
「さすがに7月に田植えをしてると、通りすがりの農家のおじいちゃんから心配されて『大丈夫か?』と声をかけられる。」そうだ。
「すごい手間暇かけてますよね」と訊ねると、
「おいしいもの作るのに、“手間”は“手間”じゃない。」と石川さんは笑う。
石川さんの微笑は、栽培方法と同じで素朴で自然だ。
農薬を使わない石川さんの田んぼでは、蛙は勿論のこと、トンボが飛び交い、たくさんの虫たちが暮らしている。
その虫を目当てに、クモや鳥たちもひっきりなしにやってくる。
↑トンボを探せ!(※すみません!ブレちゃいました!)
「雨上がりの、初夏の明け方の田んぼは、そら、きれいやで。」
クモの巣についた露が朝日に反射して、田んぼ一面がキラキラ輝くその風景は、何度みても感動モノだという。
自然から石川さんへの素敵なプレゼントである。
通常は、新米が一番美味しいとされるお米。
毎年収穫したての新米が待ち遠しい、というお米好きの方も多いはず。
お米の基準に使われる一つに、「食味」がある。
特に新米の時は、この「食味」の数値が高く、おいしいお米といわれている。
ところが、石川さんのお米は新米の時期ではなく、数ヶ月間寝かせた12月〜3月にかけておいしさのピークを迎える。
一般常識では考えられない現象だが、常連客の間では有名な話となっている。
農薬・化学肥料はもとより有機肥料さえも使用しない自然栽培のなせる奇跡か?
石川さんに訊ねてみると、
「はっきりとしたことはわからない。でんぷんがのって、旨みが増してるのではないか。」とのこと。
まぁ、もともと人間の感じるおいしさを数値だけで表すのは無理なのかもしれない。
前述した木村秋則さんの自然栽培の「奇跡のリンゴ」も、常識では考えられないが、腐らない。
それではと、ちょっと試してみることにした。
透明なガラスの瓶を2つ用意する。
ひとつの瓶には、石川さんの米を入れてヒタヒタに水を入れて放置する。
もうひとつには、市販のブランド米を入れてヒタヒタに水を入れて放置する。
2週間ぐらい経つと、市販のブランド米を入れた瓶からは、鼻が曲がるような、いわゆる腐敗臭がする。
しかし、石川さんの米を入れた瓶からは、酢の匂い(酢酸臭)はするが、腐敗臭はしなかった。
普段の石川さんはあまり自分からしゃべるタイプではないが、こちらが質問すると自分が知っている事は栽培方法まで隠し事無く丁寧に説明してくれる。
「土づくりと言っても、土の中の微生物が勝手にやってくれている。」
「それでも、やっぱり大変ですよね?」と訊ねると、
「経済的なことも含めて、辛抱できるかどうか、そこだけや。」
一度、農薬や化学肥料を使うと、土から完全にそれらが抜けるまで5〜7年はかかる。
除草剤の中には元の土の状態に戻るまで30年以上かかる場合もある。
「子どもを育てるように、米でも野菜でものびのび育ててやらなぁいかん」
『子ども』と『米や野菜』を反対に置き換えて聞いてみても為になる…。
「農薬や化学肥料が無い時代でも、おいしい米や野菜は作ってたはずや。」
石川さんのような異農家、いや偉農家が普通のおっちゃんとして、其処此処にワンサカいれば、面白いだろうなぁ。
古事記の時代や江戸時代のような「米処讃岐」の復権をついつい夢見てしまう私でした。
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