昔むかし、ある村に又平という男がおった。
こんぴら橋のたもとにお地蔵さんがたっておったのじゃが、このお地蔵さん、昼間は普通のお地蔵さんじゃが、夜になると、「のびあがり」というオバケになって、ムクムクと背と首が伸びて長い舌を出すといわれておったそうな。
村人たちは怖がって、だれもこの橋を通ろうとせなんだそうじゃ。
ある時、又平は知り合いから、このお地蔵さんの前に赤い杭を打ち込んできたらお金をやると言われたそうじゃ。
又平は、赤い杭と槌を持って、さっそく出かけたのじゃが、だんだん怖くなって、体の震えがとまらなんだ。
それでもなんとかお地蔵さんの前まで行くと、目をつぶってくいを打ち込んだが、又兵は、今にもお地蔵さんがオバケの「のびあがり」に化けそうで、あわてて逃げようとしたそうな。
ところが何かが又平の着物を引っぱって、放してくれない。
「助けてくれー!」
又平は、ありったけの声でさけんだそうじゃ。
又兵の声を聞きつけて、村人がちょうちんを手にかけつけたそうな。
「どうした、又平? なにがあったんじゃ?」
「こ、このお地蔵さんが、この『のびあがり』が、わしの着物をつかんで放してくれんのじゃ!」
かけつけた人々はビックリしたが、又平の着物を引っぱっているものを見て大笑い。
なんと又平は、自分の着物のすそに赤い杭を打ち込んで、もがいていたのじゃった。
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