昔むかし、阿波の津田川口の沖に「お亀千軒」という島があったそうじゃ。
お亀千軒という島の鎮守の森には、た〜くさんの石像があったが、獅子狛の石像の顔が赤くなったら島が沈むという言い伝えがあったそうな。
その島に、一日中海辺で昼寝ばかりしておる たいそうな怠け者がおった。
ある晩のこと、この怠け者の若者は、何を思ったかこっそり鎮守の森へしのびこんだ。
そして、獅子狛の顔を紅ガラで真赤に塗りつぶしてしもうたんじゃと。
翌朝、お参りに来た島の人は、真赤になった獅子狛の顔を見て吃驚仰天!島中、たちまち大騒ぎになってしもうた。
島の人たちは、仕事も何もかも放り出して、あわてて荷物をまとめると、船に乗って島を離れていった。
みなが慌てふためく様子を、怠け者の若者だけは、うすら笑いを浮かべて見ておったそうじゃ。
こうして、とうとう島にはその若者一人だけが残った。
「わしが紅ガラをぬったとも知らんで、ほんにバカな連中じゃ。島が沈んだりするもんか。」
その若者は腹を抱えて笑っておったそうな。
すると、その時、ドーーンという大きな音がしたかと思うと、空がにわかにかきくもり、島は大きく揺れて、あっという間に海に沈んでしもうたそうな。
今でも潮が引くと、お亀千軒の山のてっぺんだったところが、波間に見え隠れしておるということじゃ。
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