昔むかし、土佐の中村に泰作どんというひょうきん者がおったそうな。
ある時、この泰作どん、絵師と相宿になったそうじゃ。
泰作どん、おふざけ虫がでて、つい自分も絵師じゃというてしもうたそうな。
二人で話しているうちに、絵比べをしようということになったんじゃと。
まず本物の絵師が、鮎釣りの絵を書いたそうじゃ。
さすがに見事な絵じゃったが、泰作どん、どうでもいいような箇所を見つけてはそれっぽい難癖をつけたそうじゃ。
次に、泰作どんの番になった。
泰作どんはしばらく考えると、紙全部を墨で黒く塗ったそうな。
本物の絵師が不思議な顔をしながら「これは何の絵じゃ?」と問うた。
泰作どん、にこにこしながら答えた。
「これは鯨じゃ。鯨の黒皮じゃ。鯨は大きなものじゃから、紙一枚には書ききれなんだ。」
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