昔むかし、祖谷の山奥に若者が住んでおった。
ある時、この若者が塩を一俵買って帰る途中で休んでおると、大男がひょっこりと目の前に現れたそうな。
吉野木与右衛門と名のったその大男は、塩をちょっとだけなめさせてくれと言う。
若者が快く塩をなめさせると、なんと、大男は塩を全部なめてしまったそうじゃ。
大男は若者に礼を言うと、山奥へ歩いていったそうな。
この話を聞いた村人達の間で、山に天狗が出て塩をねだるという噂になったそうな。
それからは、この道を通る者はふところにひと包みの塩を持って、道において置くようになったそうじゃ。
国見山に吉野木屋敷があったそうじゃが、門前の細長い大きな石は、吉野木与右衛門が吉野川から杖にして登ってきた時の石といわれておる。
また、村の寺が焼けたとき、村のもんが与右衛門に建て直しを頼んだところ、材料を吉野川からたった一日で運んできたという話も残っておるそうじゃ。
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